リニア中央新幹線南アルプストンネル山梨工区現場 ユネスコエコパークの悲惨な現状
2018年6月、私はリニア中央新幹線南アルプストンネルの工事現場を再び訪れた。
そこにはユネスコエコパークの入口とは思えない無残な姿が早川(雨畑川を含む)に沿って延々と続いていた。昨年訪れた時とは大きな様変わりである。
早川町役場を過ぎる頃から、数えきれないほどの工事によって車は止められた。工事の内容は様々だが、結局は全て南アルプストンネルの工事に付帯するものだ。早川芦安連絡道路も、建前はともかく南アルプストンネル工事に供することが主目的であり、また協力する早川町への見返りであることは明らかだ。
しかし、河原には工事用道路ができあがり、重機が音を立て、建設土が山と積まれている。ひっきりなしに通るトラックも工事エリアの外には出ないことを考えると、土砂はエリア内で行き来しているようだ。一般車は広河内の発電所までしか進入できないので、その先の状況は確認できないが悲惨なことになっているのは容易に想像できる。
早川町は、遠い昔から財政のほとんどを水力発電所の固定資産税による収入に頼ってきた。中央構造線が走ることで崩壊が激しく狭く痩せた土地、鉱山のほか南アルプスを源頭とした豊富な水資源しか持たない町にとって、それは選択の余地なく受け入れるしかないものだっただろう。
大正時代からの発電所建設により集落は発達したが、常軌を逸した容赦ない水の搾取(=放水即取水の連続と長大な距離の導水)は早川水系のほとんどから水の流れを奪った。その後の茂倉鉱山の閉鎖や林業行政の破たんによる過疎化の波のなか、南アルプストンネル工事についても、おそらく町では諸手を挙げて歓迎したことだろう。
だからと言って、流域全体いや国民の共有財産(河川は私有化が認められていない)である川と山を、特定の人間の利益と思惑のみで一方的に破壊してよいのだろうか?後世に残すべきかけがえのない自然を奪ってまで建設するリニアとは、人口減少する今の日本でそこまでの価値があるものだろうか?そもそも国民に正しい情報を伝えコンセンサスを得る過程が実質的に踏まれていないのではないか?広河原に向かう奈良田の登山者用駐車場も工事現場と化していた。
自然に囲まれ静かに格安で泊まれたビラ雨畑も工事関係者の車が駐車場に溢れている。毎年恒例だった北岳バットレス詣、そして昨年はバスの最終日に奈良田から白根三山縦走1dayにも挑戦した。昨年は雨畑川水系は取水がなく嬉しい思いをした(今年も)。
ここは私にとって最も身近な安らぎや試練を求める場であった。釣果は別として雨でない限り今のところ川の流れは昔と変わらず清冽であり、山ではバットレスが待っていてくれるだろう。だのにもうこの早川に静かな安らぎや試練を求めることはできなくなってしまった。
この現場に遭遇すれば誰だって二度とここには足は向かない。早川芦安連絡道路にしても、災害でたびたび寸断される南アルプス公園線の二の舞にならないことを祈るばかりだ・・・。東京、神奈川、山梨、静岡、長野、愛知、それぞれの工事で同じ事が起きるのだろうか。
※早川町では中央新幹線工事の環境保全について、http://www.town.hayakawa.yamanashi.jp/town/Linear.htmlにて公開している。
工事の実態とあわせて読むとアセスメントがいかに空虚なものかを感じ取ることができる。
文責:今西