知床連山(硫黄山~羅臼岳)

日時:2025 年 7 月 12 日 (土)~13 日(日)  L N澤(記)・K原

行程:

【7月12日(土)】
 カムイワッカ湯の滝入口8:40~10:27 新噴火口~11:30 硫黄沢出合~13:47 屋根大岩~14:29 硫黄山~15:11屋根大岩~16:46第一火口キャンプ指定地(幕)

【7月13日(日)】
 3:00起床 剣沢キャンプ場第一火口キャンプ指定地4:42~8:13南岳~9:13二ッ池露営地~10:18ミクリ池~11:29サシルイ岳西峰~12:06三ッ峰露営地~13:18羅臼平~14:16羅臼岳~15:15羅臼平~16:06銀冷水~16:56弥三吉水~18:22木下小屋

おととしの7月に酷暑のなか羅臼町の低山「英嶺山」にのぼり,さらに羅臼港からのホエールウォッチングで国後島との間の根室海峡(ロシア国境)から背後の知床半島を仰ぎ見た際に,知床連山に強烈な興味が沸いた。羅臼岳自体には7年前に木下小屋からピストンで登っており,それほどきつい山という印象はないが,おととしのような天候なら水は相当必要になる。山と高原地図では稜線上の水場のすべてで「池の水を浄化」とか「涸れることあり」とか嫌なセリフが並んでいるが果たして。硫黄山と羅臼岳を結ぶ稜線のほぼ真ん中にある「二ツ池」で1泊幕営するのは妥当な計画となるが,どちらから登るかの判断の別れ目だ。硫黄岳はカムイワッカ湯の滝の少し先に登山口があるがおそらく携帯電話がつながらないのでタクシーを呼ぶことは難しい。そもそもウトロにはタクシーが1台しかなく営業時間に制約があるうえに(他の予約もあり)当日呼んだからすぐ来てもらえるようなものでもない。営業時間の中で朝イチをあらかじめ予約するのが一番確実と考えた。

女満別空港でレンタカーを借り,斜里の街で家庭用ガスボンベや飲料水のペットボトルや食材を買い込み,ウトロを目指す。当初泊まろう
かと考えていた,岩尾別温泉登山口にあるホテル「地の涯(=シレトコ)」は今シーズンは営業しないらしく,今回も隣接する木下小屋に世
話になることにした。ここの小屋番「Y井さん」は口は悪くとっつきにくいが,実は浪花節感タップリの人でとても親切だ。ここに付属の露天風呂は小屋番自らツルハシもって開拓したらしい。温泉付き素泊まり一人3千円のランプの宿は格安といえよう。

朝,といっても遅い朝。具体的には朝8時ようやくウトロ観光ハイヤーがやってくる。小屋番に見送られ,迎車料金込み9千円でカムイワッカ湯の滝まで運んでもらう。林道は続くが車止めがありここより先には入れない。当然徒歩で登山口までの 600mほどを進む必要があるのだが「通行止区間の道路特例使用承認申請」が必要。
あらかじめメールで出すことだけで通行が承認となる。すぐに人気のない「硫黄山登山口」が現れ,カムイワッカ湯の滝と硫黄川に挟まれた尾根を直上しはじめる。30 分もしないうちに樹林帯からでて直射日光が身体に降り注ぐ。足元は礫が多く,硫黄採掘跡があったり,しばらく進むと噴気が見え新噴火口に到達する。富士山の宝永火山と同じく中腹の尾根登山道の真ん中にあって噴火口と言っても焼岳の蒸気穴のような黄色い穴があるだけだ。これを過ぎると尾根から北側の法面をおろされて硫黄川の涸れ沢登りが始まる。

沢を上がると断続的に雪渓が沢床を埋め尽くしている。アイゼンはおろかチェンスパもストックも持参していない以上,気が抜けない登山が続く。背後を振りかえればV字に抜けるような青空と境が見分けられないオホーツク海が見えた。稜線の屋根大岩でウブシノッタ川からの雪渓の詰まった大谷にぶち当たる。

雪渓を横切る踏み跡が見えたが深く気にも留めずに,雪渓に沿うようにガレを登り最後は岩岩をよじ登ると硫黄山の頂上に到達した。山頂に
は道標もなく,恐ろしく遠くに目指すべき羅臼岳が見えた。ともかく証拠写真を撮る。計画より 15 分程度の押しだが,まあ上出来である。と思ったのが甘かった。山と高原地図では山頂から少し下りて第一,第二の前衛峰の鞍部を抜けることになっているが,そうと思しきところまで下りてみると,さっきのウブシノッタ川からの雪渓が立ちはだかっており,傾斜がきつくアイゼンピッケルがあったとしても,とても横切れるようなモノではない。だいたい踏み跡が無い。そうか屋根大岩の横にあった踏み跡で雪渓を横断するのか…。だったら荷物を全デポすれば良かった。後悔先立たず。テン泊装備満載のザックを背負って,岩岩の登攀と下山をし屋根大岩で雪渓を横断。再び鞍部に向け登り返した。第一火口分岐についた時には 16時になっていた。計画では幕営地二ツ池についている頃である。

ここから南岳を経由して二ツ池までコースタイム 3 時間。無理は禁物である。ここで宿営地を第一火口キャンプ指定地に変更する事に決める。計画ルートから外れ,ガレ道を下りる事 30 分強で巨大雪渓が現れ,そのスキー場のような雪渓を下りたところにテン場が眼下に見えてきた。地図にかかれた「3 張~5 張」は嘘でゆうに300 張りは張れるんじゃないかと言えるぐらいの規模である。テントを設営後,巨大雪渓の一番下部に小川状態で流れている融水を汲みスーパーデリオスで濾す。アルファー米と戸隠小舎特製ヒマラヤンカレーの組み合わせで腹を満たす。知床名物フードロッカーは誰も使っていなかった。この食べ物が無い稜線にまで熊が頻繁に上がってくるとは思えない。熊への恐怖より疲れが勝って,早々に床に就く。

翌朝 4:40 第一火口キャンプ指定地を出発。雪渓を登り返し第一火口分岐に 40 分かけて元の稜線に戻った。ここから厳しく痩せた稜線を,右手にさっきまで居たテン場を見下ろしながら慎重に進み,,知円別岳に着く頃にはすでに7時を回っていた。ここから山容が一変し,タオやかな尾根にお花畑という,夢見ていた稜線が羅臼に向け延々続いている。しかしそれは遠目にはであり,登山道を進むとハイマツ藪漕ぎ地獄が始まる。ハイマツと聞けば腰下ぐらいに思われるかもしれないが,背丈よりも高い。ハイマツを両手で避けながら塹壕の中を進むように前に進む。

南岳を過ぎ二ツ池に着いたのは9時を回っていた。昨日強引にここに来ようとしていたら途中で確実に日没になり,たどり着くことはできずに不時露営に追い込まれた公算が大きい。クワバラクワバラ。今日だってハンデを追っている。最悪,羅臼ピストンはカットする羽目になりかねない。先を急いだ。その後サルシイ岳も三ツ峰もピークを外して登山道は切られており,ハイマツ地獄も先に進むにつれ収まり,羅臼平には 13:18 に着いた。ここにデポして羅臼岳山頂まで空荷ピストンで 2 時間、岩尾別温泉登山口に荷を背負って下山に 3 時間。ギリギリだがチャレンジ可能と踏んだ。若いころの陛下も雅子さまも登ったそうだが(本当か?),急峻な岩岩を乗越ながら山頂にたどりついて,再びの証拠写真。そこから踵を返すように,羅臼平に戻り,木下小屋に向け大下山である。弥三吉水の水場を過ぎたぐらいで,さすがのK原さんの脚も悲鳴を上げ始めた。あと少しで…というところでドッカと登山道に居座る鹿に出くわす。熊じゃなくて良かった。と胸をなでおろし,程なくして木下小屋にたどり着く。

小屋番は相当呑み進んでいるようで赤ら顔でお出迎え。「硫黄山よく登ったなぁ。あそこ危ないんだよ。」って行く前に言ってよ(笑)